大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)158号 判決

1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2 そこで審決取消事由の存否について判断する。

(一) 成立について争いのない甲第六号証によれば、第一引用例は、薄鉄鈑製家具又は扉等の表裏両面の鈑間の距離が小さい鉄構造物の溶接に関し、表裏両面に補強材を完全且つ確実に溶接すると共に、溶接痕跡を認め難い体裁の良い構造物を得ることを目的とし、該構造物の「表裏両面鈑間ニ補強材ヲ各一点ツツ同時ニ熔着セシムルニ当り補強材ヲ両側ヨリ導電体ヲ介シテ支持体ニテ挟圧シテ支持シ且ツ両熔接点間ヲ通スヘキ熔接電流ノ大部分ヲシテ前記導電体内ヲ通セシムヘクナシタル電気点熔接法」(第二頁上欄第一三行ないし第一六行)であることが認められる。

原告は、審決は、第一引用例が電気点溶接法という「方法の発明」であるのに、「物を生産する方法の発明」であると発明のカテゴリーを誤つて認定している旨主張する。しかし、前掲甲第六号証によれば、前記認定の「特許請求ノ範囲」、「発明ノ性質及目的ノ要領」の記載のほか、「発明ノ詳細ナル説明」の記載並びに図面によつて、審決の認定する金属製扉の製造方法に関する技術的思想が開示されていることが明らかであり、この点に関し審決の認定に格別の誤りはない。

また、原告は、審決は、第一引用例が、電気点溶接という明確に技術条件の特定された溶接法であるのに、この技術条件をはずし電気抵抗溶接であればすべてが含まれるように拡張認定している旨主張する。しかし、審決は、第一引用例の溶接方法について、「外側から補強材のある個所を電極によつて挟持し加圧通電する」(第一丁裏第九行ないし第一一行)、「スポツト溶接」(第二丁表第一行、第二行)と認定しているだけであり、電気抵抗溶接であればすべて含まれるように拡張認定していないことは明らかである。

更に、原告は、審決は、第一引用例におけるスポツト溶接に必須構成要素である「導電体や支持体の介在」と「電気的並行回路の形成」を除外し、これらの構成要素がなくとも、同時溶接が可能であるかの如く誤つた認定をしている旨主張する。しかし、審決が第一引用例について認定しているのは、公知技術文献としてのものであるから、そこにどのような技術的思想が開示されているかを示せばよくその具体的な実施態様のみに限定される必要はない。第一引用例のものは、すでに述べたとおり、外側から補強材のある個所を電極により挟持し加圧通電することによつて、上下パネルと補強材を同時に接合するものであることは、審決認定のとおりであつて、第一引用例の発明の実施態様として示される「導電体や支持体の介在」とか「電気的並行回路の形成」について認定していなくとも、審決の認定に格別の誤りがあるとはいえない。

したがつて、第一引用例の認定の誤りについての原告の主張は採用できない。

(二) 成立について争いのない甲第二号証の三によれば、本願発明の特許請求の範囲には、「上下の水平な接合部に相対応する突起を配設した」コ字状補強部材3、3´、3´´が記載され、且つ該補強部材を「上部パネル1と下部パネル2の間に挟み込むように組合せ」、その溶接に備える機能が示されていることが認められる。したがつて、本願発明におけるコ字状補強部材は、溶接用継手としての機能を有するものであり、換言すれば、その機能は、溶接時に突起に対する加圧作用と通電媒体としての作用を同時に行い、離間した上下二点の突起部分が同時に発熱溶着し、確実に仕上りの良い溶接ができる性質のものであり、溶接後は結果的に単なるコ字状補強部材となるとしても、溶接時にはプロジエクシヨン溶接を効果的に果す溶接用継手としてのすぐれた技術的内容を有するものであつて、被告の主張するように、<1>突起を配設してプロジエクシヨン溶接を可能にしたことと<2>(コ字状の)継手機能を有することとに、それぞれ、切離して評価の対象とすべきものではなく、同時に<1><2>の機能を不可欠に結合して備えることが必須要件というべきである。

そして、前掲甲第六号証を検討してみても第一引用例のものが本願発明におけるこのような機能を持つていないことは明らかであり、審決が本願発明と第一引用例を対比し、相違点について第二ないし第四引用例を掲げてコ字状補強部材を示さざるをえなかつた所以もこの点にある。また、成立に争いのない甲第七号証ないし第九号証によれば、第二ないし第四引用例のコ字状補強部材が本願発明に係る溶接用継手機能を有していないことも、これらのものがプロジエクシヨン溶接用継手でないことからみて明らかに認められる。すなわち、これら第二ないし第四引用例のものは、溶接後のコ字状補強部材に相当しているとしても、溶接時の溶接用継手機能を有していない点で、本願発明と対比すべきコ字状補強部材とはなりえないものであつて、この点に関し、審決は、まさにコ字状補強部材についての溶接用継手機能を看過しているというべきである。

(三) 本願発明における溶接法は、コ字状補強部材の溶接用継手機能を特徴とするプロジエクシヨン溶接法であることは、前記(二)認定のとおりである。

ところで、成立について争いのない甲第一一号証、第一二号証、乙第一号証によれば、プロジエクシヨン溶接及びスポツト溶接は、いずれも抵抗溶接の一種であり、プロジエクシヨン溶接がスポツト溶接の変形であることは、普通に知られており、両溶接方法は目的に応じて設計上置換可能であると認められる。

また、前掲甲第一一号証、第一二号証によれば、スポツト溶接は、被溶接物を電極で挟持し、電極により挟持された電極の形状に従つた部分のみについて被溶接物間の溶融接合を図るものであるのに対し、プロジエクシヨン溶接は、被溶接物を挟持する電極の形状に直接係わりなく被溶接物のいずれかに設けられた突起の溶融を利用して被溶接物間の溶融接合を図るものであることが認められる。この観点から第一引用例(特に別紙図面2の第二図、第三図)をみると、一方の電極(8)からの電流は、一方の突起(7)を介し、補強材(3)を通るよりも導電体(5)を通つて(これにより補強材は、その突起(7)以外はあまり加熱されない)他方の突起(7)及び他方の電極(8)に通電されることは、前掲甲第六号証に「導電体(5)ハ補強材(3)ノ熔接セラルヘキ点ニ接近セル部分ニ於テノミ該補強材ニ接着シテ電気的並行回路ヲ形成スル如クナシ公知ノ点熔接機ノ電極(8)(8)ヲ鉄鈑(1)(2)ノ被熔接部ニ加圧シテ熔接電流ヲ通セシムルトキハ補強材(3)ノ凸隆部(7)ハ鉄鈑(1)(2)ニ熔着シ該鉄鈑ノ内側面ニ補強材(3)ヲ同時ニ固着セシムルモノトス」(第一頁下欄第一四行ないし第一九行)と記載されていることから明らかである。また、電極(8)(8)により突起(7)(7)は、第二図に示すように上下のみでなく、第三図に示すように並列する数個の溶接点も同時に溶接され、溶接のされ方は、電極(8)(8)の形状に従つた被溶接物間が溶融接合されずに、電極(8)(8)の形状と直接関係のない突起(7)(7)により被溶接物間が溶融接合されていることが認められるから、これらを総合すると、第一引用例の溶接方法は、スポツト溶接というより、原告が本願発明の明細書において第一引用例の金属製扉の製造方法はプロジエクシヨン溶接法の特徴を利用している電気点溶接法であると認めている(甲第二号証の三、第二頁第一八行ないし第三頁第九行)とおり、プロジエクシヨン溶接であるとするのが相当である。

そうであれば、本願発明の溶接方法と第一引用例の溶接方法はプロジエクシヨン溶接である点で同一であるから、第一引用例の溶接方法がスポツト溶接であることを前提として、その置換容易性を争う原告の主張は、その前提において誤つていることになる。

しかしながら、第一引用例の溶接方法がプロジエクシヨン溶接であるとしても、その補強材は前記認定から明らかなようにコ字状でなく、また第三引用例の溶接方法がスポツト溶接であることは当事者間に争いがなく、スポツト溶接をプロジエクシヨン溶接に置換することが容易であり、かつ第三引用例の補強部材がコ字状であつても、前掲甲第七号証、第九号証による第二引用例及び第四引用例のコ字状補強部材と同じくプロジエクシヨン溶接用継手ではない。結局、前記認定のような本願発明の特徴とするコ字状補強部材の溶接用継手機能は、第一ないし第四引用例や周知技術のいずれにも備えているものでもなく、またそれを示唆するものも存しないといわねばならない。

3 以上のとおり、審決は、本願発明の特徴であるコ字状補強部材の溶接用継手機能を看過し、その点に関する技術的思想の開示がみられない各引用例及び周知技術から本願発明を容易に発明することができたとしたものであつて、判断を誤つたものといわねばならず、違法であるから、取消を免れない。

4 よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編註その一〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。

1 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四六年七月二八日、名称を「金属製扉の製造方法」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和四六年特許願第五六五五四号)をしたところ、昭和五一年九月一〇日拒絶査定を受けたので、同年一一月四日審判を請求し、昭和五一年審判第一二〇〇九号事件として審理されたが、昭和五六年四月一七日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年五月一三日原告に送達された。

2 本願発明の要旨

適宜の形状に裁断加工した上部パネルと下部パネル、及び上下の水平な接合部に相対応する突起を配設したコ字状の補強部材を用意し、補強部材を上部パネルと下部パネルの間に挟み込むように組合せ仮着した後、当該両パネルの外側より相対応する突起の部分を電極によつて挟持し、加圧通電することによつて内側の上下突起部分を同時に接合するようにしたことを特徴とする金属製扉の製造方法(別紙図面1参照)。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙

図面1

<省略>

図面2

<省略>

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